どらっくすのちゃんぷる〜日記。

どうせ誰も読んでない。

2014年05月23日

一杯の水

「もうダメだ。」
諦めの言葉が、頭の中にこだまする。
「水が欲しい…」
目の前には、ただただ広い砂漠が広がっていた。
だが、もう戻ることもできない。
進むしかないのだ。

懐には、大きな宝石が入っていた。
まったくの偶然で手にしたその宝石は、
まったくの偶然ながら盗品であった。
僕が盗んだわけではない。
落ちていた物を拾っただけだ。
これ幸いにと、
宝石商に持って行ったところ、
潜んでいた警察に追われることになった。

隙をみて逃げ出したのは良かったものの、
何の準備もせずに飛び出したせいで、
命を危険にさらす羽目になった。
砂漠に囲まれた街に住んでいるという自覚はあったが、
その砂漠が、こんなにも広いとは、
思いもしなかった。

生まれてから、ほとんどの人間は、
街の中で一生を終える。
この街を囲う砂漠はそれほどに広いのだ。
稀に、外から来る者があったとしても、
もう一度外へ戻ろうとするものは少ない。
それほどに、過酷な砂漠なのだ。

つまり、何の準備もせずに出てきた僕は、
遠くない将来に、死ぬことになる。
おとなしく捕まっていれば、
数年で檻から出られただろうに。
逃げ出してしまったから、
こんなことになってしまった。

いや、宝石商に売りに行かずに、
警察に届けておけば、
盗まれた人から謝礼を貰うことだって、
できたかもしれない。

バカだった。
正しい行いをすれば、
助かっていた命を、
無駄に消費してしまったのだ。

日が沈んでいくと共に、
急激に冷え込んできた。
昼は暑く、夜は寒い。
砂漠とは、そういうところなのだ。
それでも、ただひたすらに歩く。
命尽きるまで、歩き続けるしかない。

どれくらい歩き続けたのかわからなくなった頃、
先の方に、何かが見えてきた。
「オアシスだ…」
僕は残された気力を振り絞り、
オアシスまで夢中で歩いた。

ああ、神様。
ありがとうございます。
僕は、もう二度と、悪いことなどいたしません。

ようやくオアシスにたどり着くと、
そこには数人の警官が待ち構えていた。
「よくここまで逃げたものだな。」
警官はそう言いながら、僕を縛り上げた。
抵抗する力は、もう残っていなかった。
「砂漠に逃げたものは、ここにたどり着けなければ死ぬ。」
「たどり着いたとしても、我々が待っていて殺す。」
「宝石を盗むのは死罪と決まっている。」
「さあ、宝石を出せ。」
「その前に、水を一杯もらえないでしょうか?」
「水か、飲め。」
受け取った水を、一心不乱に飲んだ。
人生で、一番うまい水だった。
「ありがとうございました。」
僕は、懐に手を入れた。
ない。
宝石は、なかった。
どこかで落としたのだろうか?

僕は懐からそっと手を出した。
「私は何も持っていません。」
「なんだと?」
「宝石など、盗んではいません。」
「本当か?」
「はい。」
警官たちは、僕の服を脱がしたが、
ないものは出てくるはずがない。
「飲み込んだわけではあるまいな?」
「水もなく、あのように大きな宝石を飲み込めるでしょうか?」
「どこかに隠したのか?」
「この砂漠に、あのように小さな宝石を隠し、見つけることができましょうか?」
「それでは、お前はここに何をしにきた?」
「最初に申しましたとおり…」
僕は息を吸い込んだ。
「一杯の水を飲みに来たのです。」
ラベル:小説 日記
posted by どらっくす at 00:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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