どらっくすのちゃんぷる〜日記。

日記?の更新は基本的に毎日22時から24時の間くらいにしています。

2016年12月29日

あな。

「あなたはいったいどういうものが好きなんですか?」
急にそんなことを問われても、なんとも答えづらかった。
なにしろわたしにとっても初めてのことだったからして、すぐにどうこう言えるものではなかったのである。
「あなたのような美しい方に話すのは気がひけるのです」
などと、適当にごまかして、その場を逃れようとしていたのである。
だが、それでごまかされるような人間はこの場にはおらず、むしろ「こいつは人の秘密を握るだけ握って、自分のは話さないつもりではないか?」という疑惑の目を向けられてしまった。
このような場を作ったのは、ひと時の気の迷いであったという他ない。
気の迷いによってわたしは、人が好まざるものを好むものの会と名付けた会を開くことにした。
私自身は、特に秀でて好きというものはなかった。殊に人が好まざるものは大概にして嫌いであった。だが、そういうものを好む人がいるということ、そしてそういう人たちを目の当たりにしたいという好奇心がわいてしまったのだ。
そこで知り合いの作っている雑誌に小さく広告を出すことにした。広告と言ってもいわゆるペンフレンドの募集のようなもので、こんなことをしても誰も集まるはずがなかろうというものであった。
しかし、世の中には奇特な人間というものが幾人かいるようで、数人の人間が会に参加すると言ってきた。
わたしはしかたがなくとある喫茶店に個室を用意していただき、そこで会を開くことにしたのである。
わたしを含めて4人の人間がその場に集まった。
この人たちがいったいどのようなものを好むのか、わたしには見当もつかなかった。
まず一人目に話し出したのは齢40を過ぎたであろうご婦人だった。
「わたくし、実はよその人のものしか愛せませんの」
などと言うので、なるほど不倫の話かと思いきやそうではなかった。
「子供は5人、男が2人、女が3人いるのですけど、どの子供も嫌いでして。ただ主人がお手伝いに産ませた女の子だけを愛していますの」
「自分の子供には愛情を感じないのですか?」
「ええ、これっぽっちも」
「それで、その手伝いの女性というのはまだ雇っているんですか?」
「いいえ、すぐに首にして、娘だけ引き取りました。たっぷりと愛情を注いで育てていますの」
どうにも恐ろしい話である。自分の子供よりも、他人の子供が良いなどという母親。その母親の元に生まれた子供はもちろん、本来母親でない女性に愛情を注がれた娘がどれほど歪に育っていくのか。
そしてその母親自身も、そのことをおかしいと思っている。愛情が真に人を育てるものなのか、何年か後にまた話を聞きたいものである。
次は70歳は過ぎたであろう男性であった。
「わたしが好きなのはわかめでございます」
「わかめというと海藻の?」
「ええ、あのわかめです」
海藻が好きな人は大勢いるだろう。もちろん嫌いな人も多くはいるだろうが、取り立てておかしいというほどの趣味ではない。
「わかめを毎日食べているうちに物足りなくなりまして、自分で養殖するようになったのです」
老人は全員を見まわしてから話をつづけた。
「最近では育ったわかめを浴槽にいっぱい集めて、その中に浸かったりもしています」
「それはまた……」
「わたし自身、どこまで好きになるのかわかりません。いずれはわかめそのものになりたい」
恍惚とした表情で老人は話を終えた。余談になるが、この数週間後に、この老人のご家族から彼が亡くなったという連絡があった。死因を聞いてみると口ごもったので「わかめが関係あるのですか?」と聞いてみるとやはりそうだった。
老人は乾燥わかめを限界以上に食した後に、水の中に入り窒息死したそうだ。棺には花の代わりにわかめを敷き詰めたと言っていたから老人も満足な葬儀だったろう、いささか磯臭そうではあるが。
最後にここまで一言も発していない残りの男にも話を聞いたが返事はなかった。
おもむろに紙を取り出すと、そこになにやら書き、私に差し出した。
「私は喋らないのにこういった集まりに来ることを好む、と書かれていますね」
全員が男の方を見ても、何も喋らなかった。
「筆談はするのですか?」
できればしたくない。と書いてきた。
「理由があるのですか?」
自分の声が嫌いなのです。と書いてきた。
そう言われると聞きたくなるので、散々みんなで声を出させようとしたが男は黙ったままだった。そうして私たちの間に少し冷めた空気が流れたことすらも、どこか楽しんでいる様子だった。
「あなたはいったいどういうものが好きなんですか?」
突然、私に向かって婦人が言葉を投げかけてきた。
私は何度か逃れようとしたが、前の男が何も話さなかったこともあり、その上わたしまで話さないということは許されそうになかった。
さて私は弱ってしまった。本来なら男がやっていることというのは、私のやりたかったことに近い。
つまりは、悪趣味を笑うのが悪趣味ということにしたかった。
だが、すでに使われたものでは許してもらえないだろう。私はよりにもよって自分の趣味の中で一番くだらないものを選んで話し出してしまった。
「少し性的な話になるのです」
「聞かせて」
婦人の目が輝いた。どうもこのご婦人は刺激にも飢えているらしい。
「たいしたことではないかもしれませんが、わたしは豚鼻が好きなんです」
とたんに婦人の目に怒りと軽蔑が浮かんだ。
「豚鼻と言ってもぶひぶひと鳴らす方ではありません。器具を使って引っ張りあげるのです。その美しさといったらありませんよ」
「失礼させていただきます」
婦人が立ち上がったので、なんとなく場はお開きということになった。
男はにやつきながら握手を求めてから帰った。
老人は近づいてきて「わかるような気がするよ」と私の肩を叩いた。
「私もわかめに性的な興奮を覚えているのかもしれない」
「そういったこともあるかもしれません」
「さっきのご婦人の鼻も釣り上げてみたかったのかい?」
「もちろん。あれだけ穴が立派でしたら、よっぽど美しくなったでしょう」
「わたしは穴を広げるよりも埋めたくなるよ」
「その気持ちもわかるような気がします」
老人が帰っていくのを見届けて、わたしも家に帰ることにした。
それぞれが何かしらの穴をこの会によって埋めようとしていたのかもしれないが、わたしはその穴を広げることに快感を覚えていた。帰る直前の婦人の顔を思い出す。憤慨してはいたが目の奥にわずかな期待という穴が開いていたような気がする。
近いうちに彼女に開いた穴を、わたしは広げることになるかもしれない。



また一つ、自分の中の扉が開いた気がします。
わりとこういうものを書くのは好きかもしれない。
posted by どらっくす at 21:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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