どらっくすのちゃんぷる〜日記。

日記?の更新は基本的に毎日22時から24時の間くらいにしています。

2016年12月31日

男と坊主。

名前のない男がいた。
いつ生まれたのか、どこで生まれたのかもわからない、何も持たない男だった。
男は何かを得ようともしなかった。欲というものすらも、どこかに忘れてきてしまったようだった。
一日の大半を森の中の木の下ですごし、腹が減った時にだけ食事をしていた。
男は食事をすることに罪を感じていた。
何も欲しくはないのになぜ腹が減るのか。
腹が減ると、何かを食べずにはいられなかった。
食わねば死ぬ。
それが食べる理由になるのかはわからなかった。
男を訪ねてくる人があった。近くの寺の坊主であった。
男は坊主と話をするのが好きだった。言葉を教えてくれたのも坊主であった。木の下に座ることを教えてくれたのも坊主であった。男が人であることができたのも坊主のおかげである。
男は坊主に尋ねた。
「わたしはなぜ食べずにはいられないのでしょうか」
「答えはない」
「食べずにいたらどうなるのでしょうか」
「死ぬ」
「ならば死んでもいいのでしょうか」
「だめだ」
「なぜです」
「わたしが悲しい」
男は納得しかねていた。坊主を悲しませるのはいやだったが、死んでならぬ理由とは思えなかった。
男の顔を見て坊主は続けた。
「この世は、さまざまな調和としてできている。お前がいなくなることはできない」
「食べるのをやめることはできないということですか」
「食べたい気持ちがなくなったときが死ぬ時だ」
男は黙りこんだ。
「お前は自分が食べたくなっていると思い込んでいるが、世の中がお前に食べてもらいたいのだ」
「食べてもらいたい……」
「食すのが罪なのではない、食にとらわれるのが罪なのだ」
「食べたいときに食べることは、調和を調和として成り立たせているということですか」
「そうだ、世界は食べるものだけでも食べられるものだけでもない。両方なのだ」
男の体から罪の気配が薄らいでいった。
「ありがとうございます」
「わがままになってはいけない。すべては調和している」
「それでは先ほどのお前が死んだら悲しいというのはわがままではないのですか」
坊主は笑い出した。
「私もまだまだ修行が足りないな」
男は、自分が納得できなかった理由を知った。坊主の悲しみは道理から外れていたのだ。
「調和とは難しいものなのですね」
「そんなことはない。私はお前のように生きたいよ。お前は十分に調和と共にある」
「わたしは、あなたほど物を知りません」
「物を知るから、人は調和から離れていくのだ」
坊主と男を夕日が照らし、やがて沈んでいった。
坊主は男に別れを告げ、寺へと帰って行った。
森には深い闇が訪れた。
動物たちが森を支配しだすころ、夜の森の中に男の寝息がうっすらと聞こえていた。



大みそかですね。今年もありがとうございました。
posted by どらっくす at 21:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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