どらっくすのちゃんぷる〜日記。

日記?の更新は基本的に毎日22時から24時の間くらいにしています。

2017年01月13日

書かぬ。

本当はもう書きたくないものを書いているのかもしれぬ。そうはいっても書くことをやめるわけでもない。限界というのはどこに作るものなのかはわからないが、少なくとも自分が書けぬと思ったところに限界を置いてしまっては書けるようにはならない。むしろ書けないと思うことこそが、書くために必要なものであるのかもしれない。
はたして書くとはいかなるものなのか。まったくもってわからぬものである。
何も書けぬ小説家などという人間がいたとして、それはただの役立たずではなかろうか。
「いえ、違うのです。書けぬわけではないのです。書かないだけなのです」
生涯に渡って、書かぬ小説家を貫いた男がいた。名はここでは仮にT氏としておこう。T氏はとにかく何も書かなかった。そればかりか読むこともしなかった。人間社会の端の方で膝を抱えて座っているような人間であった。にもかかわらず、小説家であるということだけは譲らなかった。生涯において、一つの著作も残してはいないが、彼はずっと小説家であった。
「書かなくてもいいよ。口で言って聞かせてくれないか?」
用意した原稿用紙を脇に置き、わたしはずいぶんと妥協して、T氏の物語をこの世に解き放とうとした。T氏が本当に小説家なのかどうかを決めようとまでは思わなかったが、物語の一つもすらすらと出てこないようではわたしが彼を小説家として認める必要はないだろうと考えた。
「嫌です」
T氏の答えは簡潔であった。そうしてそれ以上は踏み込ませないという決意がにじみ出ていた。わたしは後に続ける言葉もなく、そしてまたT氏を小説家否かを判断することもできなかった。判断できないのであれば、小説家として扱ったとしても不都合はなかった。何も書かないT氏をただのクズであると断じるものもあり、それに対する憐憫とそれらのものとは違うものでありたいという反発心もあったのかもしれない。
それからわたしはT氏を小説家として扱うことにした。そう思って改めてT氏を見ると、どこか小説家のように見えてくるのだから不思議だ。飯を食う所作ひとつを取ってもどこか小説家めいている。
わたしはどうしてもT氏の小説を読んでみたくなった。
「Tさん、お願いですからあなたの書いた小説を見せてください」
「私は書かないのです。書かないからこそ小説家でいられる」
「つまらぬものでもよいのです。ごく短いものでも構わない」
「どんなものであれ書きません。でもひとつ教えます」
「なんですか?」
「文字の羅列に物語はやどりません。日常の中にこそ、物語はやどるのです」
なんだかもっともらしいことを言って煙に巻かれた気分になった。だが、T氏の行動はどうにも小説家らしかったのだから妙に納得もしたのだった。その教えがT氏が最後に残した作品だったのか。あるいは自分の死を悟っていたがゆえの教えだったのか。ちょうど一週間後にT氏は亡くなった。
普段と何の変りもなく寝床につき、朝起きてこなかったそうだ。奥さんは「ゆったりした人ですから、つい起きるのを忘れたのかもしれません」と言って笑っていた。瞳の奥の悲しみが笑いの底に広がり続けていた。だが涙を流すことはなかった。
わたしも涙を流さなかった。T氏の死を受け入れはしたが、それでもどこか生きているような気がした。現に今もT氏の声を聞いたような気がする。振り返っても誰もいない、目の前にも誰もいない。気配も感じない。T氏は死んだ。だが、本当にT氏は死んでしまったのだろうか。わたしは布団の中でT氏の小説がどんなだったかを想像する。もっと強く書くように頼むべきだったかもしれない。
「私は書かないよ」
T氏の声がまた聞こえたような気がした。わたしは目を開ける、部屋は暗く、誰もいない。再び目をつぶる。わたしはこのまま寝て、明日の朝起きることができるのだろうか。
わたしは明かりをつけ、机に向かうと、T氏のために買った原稿用紙に何事か書き出していた。



書けないと思っても、意外と何か書けたりするもので。そういうときは不思議な気もするのだけど、当然というような気もする。
そろそろ書いたものをまとめるのも良いかもしれない。まとめるのはまとめるので、おもしろいだろうと思うから。
posted by どらっくす at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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