どらっくすのちゃんぷる〜日記。

日記?の更新は基本的に毎日22時から24時の間くらいにしています。

2017年01月17日

A。

友人のAがどうしても書けぬというので、それならば書くことなどやめてしまえと言った。どうにも書けぬのに書こうとすることがおかしいので、書けぬなら書けぬままにしておかなければならない。それができないのであれば書くなどということは諦めた方が良い。
するとAは「農家が野菜が取れぬからと農家をやめるかね」などという。「やめることもあるだろうね」というと黙った。
「もしやめるにしてもまったくの廃業というわけにはいかない。やめるなら死ぬしかないだろう」
「どうも君は小説的にものを考えすぎているよ。できぬなら別を探すまでだろう」
Aはまたふむと言ったきり黙った。
書けないのなら書けないと開き直る。これができないから彼は悩んでいるのだろう。だからといって悩むひまがあるのであれば一文字でも何か書けば良いのだ。こんなところでふむと言ったきり黙っているところを見ると、書けぬと言いたいだけであり、気にするほどのことでもないのだろう。
「農家は野菜が取れないときは自分のせいだと思うかね?」
Aがまた口を開いた。
「思わんだろうね」
「うん、つまりは私が書けないというのも同じなんだ」
「というと」
「だから書けないのは私が悪いというわけではない。様々な要因があって書けぬのであって、それは野菜がうまく育たないのと同じ」
「なるほど」
「ようやく心が安らいだ。君に話すと考えがまとまるよ。じゃあ私は帰って寝る」
「それはよかった」
Aは嬉しそうにわたしの部屋を出ていった。それがはっきりとAを見た最後だった。行方知れずだ。
心当たりを訪ねてみたが、結局居所はわからなかった。死んだわけではないだろうが、姿を現さぬのか、それとも現すことができぬのか。いずれにせよ彼の身を案じ、夜もよく眠れなくなった。眠れなくなると体調を崩すのだから人体はよくできている。わたしは布団から起き上がることもままならぬほどに弱ったが、それでも眠りは浅いままだった。
わたしはそれでもAの来るのを待っていた。Aはわたしを頼ってくれていたが、わたしもAを頼っていたのだ。むしろわたしの方がAを頼りにしていたのかもしれない。時折Aの幻覚を見るようになった。
だからその時も、おそらく幻覚だったのだろう。Aの幻覚はわたしを見下ろしていた。
「ずいぶん弱っちまったね」
「ああ、また君かい」
「またって、ずいぶんと久しぶりだよ」
「そうだったか」
「お前が弱ってるんじゃしょうがない、今日は帰るとするよ」
「まだいていいよ」
「まあそうもいかない事情もある」
わたしの意識ははっきりとしなかった。妙に現実味のある幻覚なのか、あるいは本当にAがそこにいるのか。思い出そうとしても思い出せない。
「いいかい、お前が弱ってたらオレは困るよ」
「そういってもらえるとうれしいよ」
「オレが弱ったときにお前はいつだって話を聞いてくれた。だがお前が弱ったときにオレは何も聞かないよ」
「そういう間柄だね」
「ああ、元気な時にお前に話すことなんてないし。弱ってるお前の姿は見たくない」
「わがままなやつだ」
「話したら元気が出たよ。やっぱりお前に話すのが一番だ」
わたしはもしかしたら本当にAが来ているのではないかと思い意識を奮い立たせた。だが部屋の中には誰もいなかった。ほんの少しだけ外の匂いがしたような気がした。
その日からわたしの体は回復していった。幻か現実かはわからないが、わたしが病気をしていたらAが困るのだ。そう思ったら寝ていられなかった。
ひとつ気になることもあった。もしあのAが本物のAなら、わたしに何を話に来たのだろう。また何も書けぬと泣き言を言いに来たのだろうか。次に来た時に聞けば良い。とにかく体を治すことだ。
その後わたしは数十年を生きた。Aがわたしを訪ねてくることはなかった。行方もわからなかった。訪ねてこなかったところをみると、きっと弱ることなく幸せに暮らしたのだろう。わたしは大きく息を吐き、目をつぶった。
「ずいぶんと困ったことになったよ」
「へえ」
「もしかしたら地獄行きだ」
「案外良いところかもしれないよ」
「そうかねえ」
「そうさ」
「お前は天国行きだろうね」
「どうだか」
「久しぶりに弱っちまったよ。どうしたもんか」
「気が済むまで話してくれたらいい。どうせ時間はたっぷりある」



毎度毎度、書く段階になって書くことがないなあなどと困ってしまう。困るぐらいなら書かなくても良いのだろうけど、それはそれでなんだか気になる。それで結局なんだか書いてしまうのだから、そういうものなんだと思うしかない。
きっと書くことっていうのは、その辺に転がっていて。時間が来るとたまたま出てくるようなものなのだろう。人間がいなくても野菜は育つし、人間がいなくても物語は生まれる。
posted by どらっくす at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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