書くということの意味がなんなのか、そもそもそこに意味があるのか。
私にはわからなかった。
教授はそんな私に、書くということの意味を教えてくれた。
そして、最後に今の一言を付け加えたのだ。
「癒し、ですか?」
「そう癒しだ。」
「たしかに癒されることもあります。」
「そうだろう。」
私は目をつぶった。書くことで自分自身が癒されている。それは確かにそうだった。
「でも。」
教授の目が少しだけ大きくなった。私が反論しようとするとは思わなかったのだろう。
「でも、なんだね?」
「たまに辛いです。」
はっはっは、教授は高らかに笑った。教授の笑い声を聞くと、私は自分が肯定されたような気になる。
「君はカレーは好きかな?」
「カレー?はい、好きですけど。」
「そのカレーはどれくらい辛い?」
「辛いカレーは苦手です。どちらかというと甘口が好きなんです。」
「そうか。」
教授は一瞬下に目をやり、何かを考えているようだった。そして、顔を上げると、私の目をじっと見た。
「では、今日のランチはカレーにしよう。甘口のやつだ。」
教授は歩き出した。ランチを食べに行くのだろう。
ボーっと立っていると、教授は立ち止まり、こちらに振りかえった。
「どうした?」
「どうしたというと?」
「ランチに行かないのか?」
「ご一緒してもよろしいんですか?」
「当たり前だ。おごるぞ。」
私は教授の横に並び、食堂を目指した。
「教授。」
「なんだ?」
「もしかして、つらいとからいをかけて何か言おうとしましたか?」
はっはっは。教授は笑った。
笑い声は青空に吸い込まれて、暖かな日差しとなっていく。
「なかなか辛口なコメントをしてくれるね。」
「そうでしょうか?」
「むしろ甘口だったかな?」
はははっ。私は笑った。
「おや、君が笑うとは珍しい。」
教授の驚いた顔。
「私だって笑うことはありますよ。」
私の笑い声は、空に吸い込まれただろうか?教授の笑い声のように。
「今日は日差しが暖かい。」
教授が空を見上げながら言った。
私はそれで、なんだかとても嬉しくなったのだった。


