現れたと言っても、町長の元に予告状が届いただけ。
予告状には、こう書かれていた。
『今日の23時に、町で一番たいせつなものをいただきます。』
すぐに警察に連絡すると、警官が町役場にやってきた。
「町長、この町で一番たいせつなものとは、いったいなんでしょう?」
「うーん。なんだろう?」
「美術品とか、ないですか?」
「そういえば、美術館に一点、貴重な絵があるとか。」
「それかもしれませんね。」
町長と警官は、二人で美術館に行きました。
「館長、この美術館で一番貴重な絵はどれだね?」
「はぁ、こちらですが、いったいなんでまた?」
「実は怪盗から予告状が届いたのです。」
「ええー!それは大変だ!警察に連絡しないと!!」
「落ち着いてください。わたしがその警察です。」
とにかく大急ぎで応援を手配しようということになり、
美術館のまわりにたくさんの警察官たちがやってきた。
狭い町のことだから、すぐに噂は広まった。
「美術館に怪盗が来るらしい。」
「なんでも美術館にはとんでもないお宝が隠されてるんだと。」
「館長のやろうめ、今まで隠してやがったな。」
「どれ、いっちょ見物に行こうか。」
「そうしよう。」
田舎町のほとんど全員が、美術館のまわりに集まった。
それだけの人が集まれば、酒盛りやら井戸端会議やらが繰り広げられる。
あっという間に美術館のまわりはにぎやかになってしまった。
なにぶん娯楽の少ない田舎町だ。
みんな怪盗が来るのを心待ちにしていた。
「すごい騒ぎになってしまったな。」
「ええ、でもなんだかたのしいです。」
「君もそう思うかね?」
「はい。」
警官たちは、町長と町役場の人の話を聞きながら、
ぐるぐると美術館のまわりを囲んでいた。
そのさらに外では、町民たちが宴会をしている。
「そろそろ23時になるぞ!」
空気が張り詰め、しーんとした空気が流れた。
一分経ち、二分経ち、五分がすぎた頃。
「もしかして、怪盗なんて来ないんじゃないか?」
と、町民たちの一人が言い出した。
すっかりしらけた空気が流れ、
町民たちはぞろぞろとそれぞれの家に帰っていった。
30分がすぎた頃には、警官たちもすっかり気を緩めていた。
「町長、どうやらいたずらだったようですね。」
「そのようです。ご迷惑をおかけしました。」
「いえいえ、何事もなくて良かった。」
町長は美術館の方を振り向くと、がっかりした様子で、
「本当にそうだったのかなぁ?」
とつぶやいた。
次の日の朝、町長の机の上に一枚の手紙が届いていた。
封筒を開けると、中には一枚の紙切れにこう書かれていた。
『きみたち町民のわくわくした心はいただいた。 怪盗より』
それから毎年この町では、この日を怪盗記念日にした。
怪盗は来なくても、毎年祭を開いてたのしむようになったそうだ。
予告状と手紙は、今でも町の宝として保管されている。
ラベル:小説





















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